【H-Dカスタム インスピレーション】#2 20インチの巨大リアホイールを収めた“ネオチョッパー”
我々のカスタム意欲を刺激してくれるのは、有名ショップの手がけた“フルカスタム”だろう。この企画では、あえてそんなフルカスタムに的を絞って紹介していく。内容やコストを考えれば夢のまた夢かもしれないが、カスタムのヒントを与えてくれるのは、まさにこうした究極の一台なのだ。
CUSTOM WORKS ZONが“世界”を意識して仕上げた【RODEZON】
1990年代後半から2000年代にかけて「ウエストコースト チョッパーズ」率いるジェシー・ジェームスが生み出した「ネオチョッパー」は、当時のカスタムシーンを席巻した。それまでチョッパーといえば本場アメリカにおいてもマイナーな存在だったが、TVのディスカバリーチャンネルに登場するや、世間一般にまで認知されるようになったのだ。そんな流れを受けて脚光を浴びたのが、技術力の高さがあってこそ誕生するハイクオリティな「ジャパン・メイド」のネオチョッパーだ。
ジャパニーズカスタムの底力を世界に認知させた実力派のひとつが滋賀県にショップを構える「カスタムワークス ゾン」。アメリカで最もハイレベルなカスタムショーといわれる「ラッツホール」で2007年にチャンピオンに輝いて以降、世界中の多くのファンから注目を集め、以降も有名カスタムショーでアワードを獲得する、押しも押されぬカスタムショップだ。そんな同店が2011年に製作した一台が、この「ロデゾン」。オランダ語で「赤い太陽」という意味の名前にしたのには理由がある。東日本大震災という大災害を乗り越え、日本がいままさに頑張っていることを、自らの仕事で示したかったからだ。
フロントは23インチ、リアには20インチの大径ホイールを片持ちのスイングアームで支えるロデゾン。驚かされるのはジュラルミン製スイングアームを、マシニングで削り出したのではなく、サンダーでひたすら削って製作したという事実。高度の高いジュラルミンの固まりから3次元的なフォルムを“サンダー”で削って形成していく途方もない労力は、採算度外視どころか、決して商売という物差しでは測れないもの。まさにビルダー魂を感じさせるディテール。さらには1999年式の“FXSTソフテイル”がベースのフレームは、純正よりも1.3倍の強度をもたせ、単に見た目だけではなく、“しっかりと走れる”ものに仕上げた。
「上から下まで覗き込まれても恥ずかしくないように作りたかったんです。何で? どうして? と聞かれても、そこまで見られる、そこまで聞かれるんだということを、アメリカのショーで身をもって経験したから」と、同店代表の吉澤さん。バイクを見れば見るほど、そんなゾンの実直さが細部まで注入されていることがわかる。その後の活躍っぷりも納得させられる一台である。
レネゲード製23インチフロントホイールを支えるフォークは4インチオーバーの純正の径41mm。社外品のカバーでドレスアップしつつ、オリジナルのトリプルツリーで装着している。
アルミの中でも硬く、溶接もできないジュラルミンを使い、削り出しで製作した片持ちスイングアーム。微妙なRを描く形状を含め、すべてサンダーで削って製作したという、クラフト魂あふれる逸品だ。
上面にデザインされた無数のリブが強烈なタンク。上下に分割されており、下にはエンジンオイル、上はガソリンが収められている。神社仏閣を彷彿とさせるシフターは、アメリカのスワップミートで入手したドアノブを使用した。
シートベースをワンオフで製作し、「バックドロップ」で仕上げたソロシート。外装に入った無数のリブ、そしてカラーリングに合わせて仕上げている。本来オイルタンクが収められているシート下は、オリジナルのサイドカバーになっており、モノサス化されたリアショックが収めれられている。
厚い1枚の板をフェンダー形状に合わせて叩く、削る、溶接するの繰り返しで製作したというリブが圧巻。手作業によって製作することでしかできないデザイン、そして質感が見る者を引きずり込む。
BDL(ベルトドライブ リミテッド)製でオープンプライマリー化。だがBDL製をそのまま使用するのではなく、ミッドコントロールや車体のラインに合わせてデザインを整えている。フレームにも手を加えているがゆえに実現したマフラーの取り回しなど、スキのない仕上がりだ。
20インチ&280mmという大径&極太リアタイヤを片持ちスイングアームで支えるインパクトあるスタイル。そして大径ホイールを感じさせないようにまとめたフレームの造形も見事。アメリカでは「ドラゴンスタイル」とも呼ばれているというゾンのバイク。まさに的を得た呼び名といえるだろう。
【DATA】
取材協力/カスタムワークス ゾン TEL0748-52-6410