【ヴィンテージH-D カスタム ファイル】いにしえのレーサーを公道仕様に!!
サイドバルブエンジンを搭載したハーレーの中でも、別格といえる存在がこの“WR”だ。これは「AMA(全米モーターサイクル協会)」が1939年にサイドバルブエンジンを750ccまで、OHVエンジンを500ccまでと定めた「クラスC」を設立し、これを受けて誕生した生粋のレーシングハーレーがこのレース専用マシンというワケである。市販モデルであった“WL”のバルブ径を大きくし、燃焼室も変更。加えてブッシュベアリングをボールベアリングに、さらにマグネット点火を採用するなどして、最高出力は40馬力、さらに最高速は170km/hに迫るという(※ちなみにWLの最高速は115km/hほど)。フレームには市販車と同じ材質の「TTレース」用と、クロモリ鋼の軽量タイプを採用した「スプリントレース」用の2種類があり、ここに紹介するのは“クロモリフレーム”を使ったスプリント仕様、それを公道仕様にしたという1951年モデルのWRだ。
1952年に後継機種のレーサー“KR”が登場するため、これはWRの最終モデルなのだが、1951年モデルは23台しか製造されなかったといわれ、そのうちの希少な1台ということになる。
ファクトリーレーサーに保安部品を取り付けて公道仕様とした1951年型WR。本来は付いていないサイドスタンドも、ワンオフで製作したものだ。このオーナーいわく、外装パーツは「人がやっていない色がよくて」アイボリーのベースカラーにマットシルバーでフォークラインを入れた。試しで入れてみたというツヤのないシルバーの雰囲気が気に入って、あえてクリア塗装を施していないという。ホイールのリムもアイボリーで塗装して個性的に仕上がっている。
フィンの形状が違うことに気づくが、これは後継機種であるKRの腰上部分を換装しているから。実はWRの腰下にKRの腰上という状態で日本に輸入されたのだが、そのままではとてもエンジンが始動できるような状態ではなく、ただKRの腰上が載っていただけだったとか。ヴィンテージハーレーショップ「バンカラ」の作業のよってレーサーとして遜色なく走るように仕上げられた。
KR用の腰上が搭載されているとはいえ、KR用のマフラーはそのまま使うことはできなかった。そこでKR用マフラーをベースに、WRの腰下部分に合わせて作り直している。とはいっても、ほぼワンオフといって差し支えないほど手を加えたという。また、バンク角を稼ぐためにステップを4cmほどアップした。
トップブリッジ部分は純正だが、そこから生えるハンドルバーはオーナーの体格に合わせてワンオフで製作。握りやすさを考えてミリバー化している。タンク前方に取り付けているのが公道仕様にするべくスピードメーターとして追加したものだ。
小ぶりなサドルシートはベイツ製。その後ろにあるピリオンパッドのような部分は、二人乗りするための装備ではなく、アゴがタンクにつくぐらいの前傾姿勢をとるとき、ライダーが後ろに座れるようにするためのもの。これもベイツ製だ。
スプリンガーフォークはカッコよさを追求してクロム仕上げに変更。利きも強力だという大径ドラムブレーキは、1968年ぐらいのトライアンフから流用。雰囲気あるヘッドライトは1960~1970年代のユニティ製のデッドストック品だ。
この年代のWRには本来リンカート製の“MR4”というキャブレターが付いているのだが、この車両を入手したとこと“MR3”が付いていたという。どうしても年代を合わせたかったというオーナーが、オークションで探して手に入れ、MR4を取り付けた。
【DATA】
取材協力/モーターサイクルズ バンカラ TEL082-503-1200