いまこそ振り返る!【スポーツスターの歩み】~エボフレーム編
すべてを刷新して登場した「スポーツスターS」。水冷DOHCエンジンにはじまり、各種電子デバイスなどの最新テクノロジーが注入されるなど、伝統を頑なに守ってきたハーレーが、いよいよ新時代に突入したことを感じさせるNEWモデルだ。しかし、従来のスポーツスターからあまりにもかけ離れたルックスに、古参のファンは不安を覚えたかもしれない。とはいえ、その根底には“スポーツモデル”として最初にデビューした1957年モデルと同じマインドが息づいているという。では、その起源となったものとは!? というワケで、スポーツスターの歴史をあらためて振り返るこの企画。今回は歴代モデルの中で“第3世代”にあたる“エボフレーム”のスポーツスターについて紐解いていこう。
「エボフレーム」のスポーツスターとは!?
1977年に登場した「XLCR」に採用された“CRフレーム”。これがスポーツスターの全モデルに波及したのは1979年モデルからだ。第1世代である“Kフレーム”と比較すれば飛躍的に剛性が高められたものの、高性能な他社製モデルと比べれば、まだまだ改良の余地があった。特に激しい走行をするスポーツスターの場合、スイングアームのピボット周辺やリアショックの付け根などにチカラが集中するため、より剛性の高いフレームが求められたのだ。さらにいえば、CRフレームはかなり重かった。そこでCRフレームが全モデルに採用されてからわずか3年後の1982年に新型フレームへと進化したのである。基本的な作りはCRフレームを踏襲しながら、高い剛性と軽量化を実現。このフレームは以降、22年間という長期に渡って採用されることとなった。「ショベルヘッド」から「エボリューション」へとエンジンが世代交代してもなお、このフレームを採用され続けたことから「エボフレーム」と呼ばれている。
新設計された通称「エボフレーム」
CRフレームをベースに、背骨にあたるメインチューブ径を太く、さらにスイングアームのピボット部分まで伸ばすことで剛性を飛躍的に高めながら、従来よりも6.8kgもの軽量化を実現した新型フレームを1982年から採用。その翌年に登場したNEWモデル「XLX-61」にも採用されたが、これが人気を博したことから「XLXフレーム」とも呼ばれている。しかし、1986年に登場した次世代エンジン、「エボ―リューション」にもこのフレームがそのまま引き継がれたことから「エボフレーム」と呼ばれることが多いようだ。
スポーツ性を突き詰めたモデル「XLX-61」が登場
スポーツスターが本来もっているスポーティな魅力に最注目し、小ぶりなソロシートにスピードメーターがひとつのみという必要最低限な装備、そして同年に登場したホモロゲーションモデル「XR1000」を彷彿とさせるシルエットなどで“走り”のイメージを強く打ち出した硬派なモデル。いわゆるスポーツスターらしい、シンプルなカッコよさは、このモデルから始まったといえるだろう。また、エボフレームを採用した最後のショベルヘッドという点でも、注目度の高いモデルだ。
多くのファンを生み出した“パパサン”が誕生!!
ショベルヘッドエンジン後期から採用された新型フレームはそのままに、放熱性に優れたオールアルミ製エンジン、エボリューションを搭載。また、スポーツスターのルーツといえる883ccの排気量を復活させて1986年に刷新した。トラブルの心配がないほどに高められた信頼性、そしてXLX-61に通ずるシンプルな装備で大人気となった。日本では、その排気量から「パパサン」と呼ばれるほどに親しまれたほか、とても乗りやすく、エントリーモデルとしても人気を博した。1986年の登場当初は883ccと1100ccの、排気量の異なる2機種のみのラインアップであった。
従来の「ショベルヘッド」とは!?
スポーツスターの祖先といえるモデル「K」に採用されていたサイドバルブ方式よりも、効率よく燃焼できる“オーバーヘッドバルブ(OHV)”方式を採用し、圧倒的なハイパワーを実現。また、Kからミッション一体型のクランクケースや高回転で有利な4カム方式を受け継ぎながら、当時高性能といわれた英国車に対抗するべく誕生。シリンダーとヘッドが鋳鉄製であったことから「アイアン」とも呼ばれている。
ショベルに代わるNEWエンジン「エボリューション」
ビッグツインには1984年から採用されていた新世代型エンジン「エボリューション」を、2年遅れてスポーツスターにも採用。放熱性の高いオールアルミ製、そしてヘッドからクランクケースまでを貫通させたスタッドボルトを採用して強度アップしているほか、コンピューター設計によってクリアランスを詰めて設計できるようになるなど、信頼性も大幅に高められている。また、整備性向上はもちろんだが、チューニングに対する耐久性も考慮されていることもポイントだ。
大排気量版は1988年から1200ccに
当初は1100ccで登場したものの、2年後に1200ccへ排気量を拡大。現代まで続いた883ccと1200ccのラインアップはこのときから始まった。1988年モデルのスポーツスターは排気量のほかにも、フロントフォークを径35mmから39mmへと拡大して足まわりの剛性アップを図ったほか、ケーヒン製のCVキャブレターを採用して扱いやすさを向上している。
見た目はそのままに1991年以降は別モノに進化!?
4速ミッション&チェーンドライブ【1986~1990年モデル】
5速ミッション&ベルトドライブ【1991年~】
エボリューションエンジンになったことで信頼性が高められたとはいえ、ショベル時代と腰下の設計は大きく変わらず、あくまでも以前のハーレーと比較しての話だった。そのためミッションまわりのトラブルも少なくなかったのだが、1991年モデルから4速から5速ミッションに変更されたことに伴って、新しいクランクケースの採用やカムの形状を見直すなど、エンジンはシリンダーとヘッド以外のほぼすべてを刷新。合わせて電気系が見直したことで信頼性が圧倒的に高められている。また、一部のモデルからチェーンドライブに代わってベルトドライブ(※1991年は1200のみ。1993年から全モデルに採用された)が採用され、メインテナンス性も向上している。
本気仕様のスポーツモデル「XL1200S 1200スポーツ」が登場
本国はもちろん、日本でもワンメイクレースが盛り上がるなど、スポーツ志向のユーザーが増えたことを受けて1996年に登場したのが、本格的な装備をおごった「XL1200S スポーツスター1200スポーツ」だ。フロントフォークは新開発のカートリッジタイプで、伸び側15段、圧縮側14段階の減衰力調整が可能。リアショックも伸び、圧縮ともに15段階の減衰力調整可能な高性能タイプを装備。足まわりがプアな傾向にあったハーレーで、初の本格装備という点でも注目を集めた。また、1998年モデルからはツインプラグヘッドを搭載するなど、まさしくスポーツスターシリーズのフラッグシップといえるだろう。いまだスポーツ志向のユーザーから人気の高いモデルだ。
2003年までのモデルの変更点とは!?
上で紹介している箇所以外にも、ポイントとなった変更点は多岐に渡る。ここではざっくりとだが、その変更点を紹介していこう。
1994年◆フェンダーストラットの形状
フレームの後部を大幅に改良。それに伴ってフェンダーストラットの形状が変更されている。見た目の違いは、後端に向かって垂れさがっていくのが1993年までのモデル。それ以降はストレート形状となった。
1993年までのフェンダーストラット
1994年以降のフェンダーストラット
1995年~◆ガソリンタンクの大型化
スポーツスターのアイデンティティのひとつにもなっている容量8.5リットルの小さなタンク。航続距離の少なさに対する不満にこたえるべく、1995年モデルから1200シリーズに容量12.5リットルのタンクが採用された。1997年モデルからは883シリーズにもこれが採用されることとなった。
1996年までのモデル(883)の8.5リットルタンク
1997年以降のモデル(883)の12.5リットルタンク
2000年◆ブレーキシステムの刷新
前後のブレーキシステムを刷新。片押しの1ポットキャリパーから対向4ポットキャリパーに変更し、ストッピングパワーを向上させたほか、ローターも放熱性が高く、変形やクラックに強いモノに変更されている。
1999年までのブレーキキャリパー&ローター
2000年以降のキャリパー&ローター