あのフェアリングはどうやって誕生した!? ローライダーSTの担当デザイナーに直撃インタビュー!!
9月17日~18日の2日間で開催された「ブルースカイヘブン2022」。会場では同じく17日に発売となった話題の限定モデル「ローライダー エルディアブロ」のジャパンプレミアが行われた。さらにマスコミに向け、H-D社唯一の日本人デザイナーであり、いま人気爆発中の「ローライダーST」を手がけたダイス・ナガオ氏へのインタビューの時間が設けられた。その内容は10月14日発売の『クラブハーレー11月号』で掲載しているのだが、ここでは誌面では紹介しきれなかった内容をお届けしよう。
クラブハーレー編集部(以下略) 現在“ローライダーST”が、日本で“バカ売れ”していますが、世界的にはどうなんでしょうか!?
◆ダイス・ナガオさん(以下略) 全世界的にバカ売れです。発表後10分で完売してしまい、社内で新記録を作ったほどです。だから、本当にうれしかった。
――10分はすごいですね!!
◆本当にビックリしました。
――個人的な感想ですが、STはサドルバッグが付いているという点もいいなと思うんです。“走りだけ”というより、ユーザーの好みに応じていろいろな使い方ができるなぁと。
◆僕はバッグを付ける率が1~2割で、付けてないことがほとんどですが、僕らがターゲットにしてたお客さんはモジュラー的な……、付けたり外したりというのを頻繁にできるバイクを求めているだろうと。だから、簡単に取り外しできることはもちろん、バッグを取り外しても成立するカタチを目指しました。リアショックを長くして車体の姿勢が水平になるようにして……。バッグを外してもカッコよくなければという、私なりのこだわりがあったんですよ。もちろんバッグを付ければ快適にできる。旅はもちろんレインウエアをバッグに入れておけたりとか、“やせ我慢しなくてもカッコいいバイク”を目指すには、どうしてもバッグが必要だったんです。
――ベーシックなテールランプが付いていて、往年のローライダーらしい後ろ姿であることも個人的にカッコいいと思うポイントなんですよ。
◆テールランプとターンシグナルがあって……、それが“後ろの顔”ですよね、前に顔があって、後ろにもローライダーっていうアイデンティティを象徴する顔があってという。ダイナのときに登場した“ローライダーS”のときは、いままでのローライダーとは違ったモノにしようという狙いから、あえてショートタイプのリアフェンダーにターンシグナル一体型のテールにしました。だけど、今回は他の点でとても進化しているから原点に戻ってもいいんじゃないっていうことで、ああなったんです。(ダイナから現行ソフテイルに進化して)“昔のままじゃん”ってことはありえないことはひと目で理解してもらえるので、あえて後ろの顔のアイデンティティを残しています。
――デザインで特にこだわったところを教えて下さい。
◆フェアリングですね。“FXRT”からの歴史的なDNAを盛り込みつつ、ダイナミックでセクシーな面の表現にこだわりました。ウィリーGの時代とは違って、現在はコンピューターで風洞効果を検証できるので、感情とロジックが高い次元で融合できたと思います。
――最初にローライダーSTを見たとき、“ロードグライド”のような雰囲気も感じたのですが、あえて意識したのでしょうか。
◆はい、まさにそうです。ロードグライドというか、やはりハーレーダビッドソンのDNAの中でフレームマウントのフェアリングといえば、ロードグライドが唯一だと思います。そんな“フレームマウントファミリー”の傘下に入れるのだから、ロードグライドのよさを取り込んで……というのは意識しました。
――やっぱり現行ソフテイルの車格なども意識されたのでしょうか?
◆そうですね。ファッションでいえば1980年代のダボっとした感じが私の中のFXRTなんです。ハーレー好きな皆さんの愛情の眼差しで見ると“カッコイイ”となりますが、デザイナーの眼で見ると、古さを隠せない。ダボシャツ、ダボパンツ、フグが膨らんだみたいな形……。それよりも出るとこは出て、タイトなところはタイトっていうコントラストを強調しました。
――FXRTとも違うし、STならではの個性を感じます。
◆そこ重要なんですね、FXRが“ハンドリングバイク”だと言われますが、それはもう40年前の話。今のソフテイルがどれだけいいバイクか。だからこそ独自の個性を出したかったし、ただの模倣にならないように気を使いました。
――初めてローライダーSTを見たとき、個人的にはフェアリングの中に何も付いてないのが気になりました。そうしたのには理由があるのでしょうか!?
◆ローライダーSTは、ストリートグライドやロードグライドのような快適性や付属品的なもので勝負するバイクではないんです。そのほかのグランドアメリカンツーリングのモデルとの関係性を明確にするためにも、内装はシンプルにして、ライダーは走りに集中する、そうしたバイクを目指していました。個人的にあまり好きじゃないんですよ。いろいろなモノがゴチャゴチャ付いているのが(笑)。タコメーター……、まぁハーレーだからタコメーターもいらないけど、なるべくシンプルに。だから最初のSTは内装に何もないというのが逆にこだわりだったんです。単に付ければいいということではなく、“ないほうがピュアだ”という考え方です。
――なるほど、より走りに集中してほしいがゆえにシンプルにしていたんですね。
◆そうですね。“レス・イズ・モア”という感じで、ないほうがもっと魅力的だという。逆にそういう装備がほしいのなら、ストリートグライドやロードグライドなどのグランドアメリカンツーリングを選んでくれればいい。STはダイナミックなバイクなので、フェアリングはもうホントに風防の役割を果たしてくれて、ビジュアル的にカッコよければいい。そこにテレビとかGPSとか、そういうのはほしくなかったんです。で、今回登場した“ローライダー エルディァブロ”は、他の人の助言から、ああいうバージョンも作ろうということになって、スピーカーを後付けしています。
――ズバリ聞きたいんですけど、長尾さんがほしいと思うバイクを具現化したのがSTなのですか!?
◆もうそれに尽きます。自分が本気で買おうと考えているものに対して、妥協ってしたくないじゃないですか。STでは、それを実現できるチームに恵まれたんです。開発のパートナーになってくれたエンジニアのチーフは、一緒に走る仲間でもあり、STのようなパフォーマンンス系バイクに理解がある。だから見た目の重要さを理解してくれたので、だいぶ無理を言ってしまいました。やっぱりモノを完成させるためには工場の人であったりとか、いろいろな人の協力がないと実現できないんですよ。私(デザイナー)のわがままを聞いてくれて、協力してくれる人がたくさんいた。そうでなければあのカタチは生まれなかったんです。
――大勢関わっているんですか!? 我々素人はどれだけの人間が関わって、どれぐらいの工程を踏んで1台が出来上がるのかイメージが湧かないのですが……。
◆あのカタチにたどり着いた最初の一台というのは、本当に究極の一台なんです。アメリカだけでいっても50州あって、それぞれに法規が違う。それを満たしつつ満足なモノを作るとなると、実はSTのフェアリングの位置って、上下左右で5ミリ程度しか動かせない。でも、開発に関わった人間にしてみれば、あの位置でなければダメなんです。
「適当に作って、皆コレぐらいが好きだろ?」ってことじゃなく、フェアリングに限らずハンドルであっても、いろいろなせめぎ合いの中、さまざまな人が知恵を絞って完成する、開発に関わったすべての人の愛情が込められた一台。だから最初に出来上がった一台は“究極”なんです。それをクリアして初めて皆さんの元に届けられているということを、もっと多くの人に知ってもらいたいですね。