ハーレーのマフラーを考える【その2】
ハーレーだけでなく、バイクをカスタマイズするうえで吸排気系……中でもマフラーは、いまも昔も変わらない定番のカスタムポイント。単純にルックスや音をよくしたいと交換する人も少なくないだろう。しかし、マフラーはエンジンの性能に直結する重要な部分。形状の違いによって性能も大きく変わってくる。だからこそ、性能を考慮しつつ、マフラーというものを一度考えてみようじゃないか。第2回となる今回はマフラー形状による性能を考察していこう。
スタイルによって異なる特性
ハーレーのマフラーには2本出しや集合タイプなど、さまざまなスタイルがあるが、それによってどんな性能をもたらすかを考えていこう。まず最も重要なのがエキゾーストパイプだ。燃焼ガスには【その1】でも触れたように「排気脈動」と「排気慣性」が働いているワケだが、これはエキゾーストパイプの長さと内径によって大きく変化する。具体的には、吸気される混合気の体積よりも燃焼ガスは数十倍にも膨張しているため、スチールやステンレスといった耐久性のある材質であることが求められる。そしてエキパイは長くするほどに排気慣性が高まる(※長すぎれば逆効果となる)といわれているのだ。スタイルによる違いは下記の通りだが、ここで知っておいてほしいのがノーマルマフラーは決して性能的に劣るものではないこと。排出ガスや騒音といった、さまざまな規制をクリアしたうえで性能をしっかり出せるよう、研究を重ねて開発されているからだ。
高速域でパワーが出る【独立管タイプ】
前後のシリンダーそれぞれにサイレンサーをもたせることができるため容量を稼げるぶん高速域でパワーを出しやすい。しかしドラッグパイプなど抜けがよすぎる(抵抗が少なすぎる)作りのモノは、主に低中速域で混合気が燃え切らないうちに排出されてしまうためトルクが出せないので注意。
低中速と軽さが強み【2in1タイプ】
サイレンサーの手前でエキパイを集合させるのは、排気口へ向かうガスが互いに干渉し合うことで流速を速めることが狙い。主に加速時などの中速域でトルクが出るが、同軸クランクのハーレーの場合、排気干渉自体がデメリットとなり出力が向上しないことも。さらに、サイレンサーがひとつしかないため容量を稼げず設計は難しいとされる。最大のメリットは軽いことで操縦性が向上する。
独立管と2in1のイイとこ取り! 【2in1to2】
エキパイが一度集合したあとでサイレンサーが2本に分かれるタイプ。高速域でのパワーという独立管のメリットと低中速域でのトルクという2in1のメリットが狙える。しっかりと設計されたものならば全域で扱いやすく、パワー&トルクも出る
各部位の形状によっても特性は変化する
マフラーの性能を左右するのはスタイルのみではない。エキゾーストパイプやサイレンサーのカタチをはじめ、長さや太さの違いによっても変わってくる。また、エンジン性能を引き出すという目的だけでなく消音効果をどれほど実現できるかなど、さまざまな狙いがあるのだ。
エキパイの長さや太さによってマフラーの性能は大きく変化する。一般的には長いほどマフラー内の排気慣性が高まるといわれているが、長すぎればその効果も弱まってしまう。使用する目的やエンジン特性に合わせて、適切な長さになっていることが大切だ。
細いエキゾーストパイプを通ってきた燃焼ガスをサイレンサー内部で膨張させて減圧することで排気音を小さくする構造になっている。一般的に太く大きなサイレンサーほど、高音が目立たず重低音が強調された音になる。
サイレンサー内はメーカーによっていろいろな形や構造があり、それぞれパワー特性やサウンドが異なる。基本的にはサイレンサー内部に複数の部屋を作り、燃焼ガスがそこを通り抜けていくことで音量が小さくなるようになっている。
集合マフラーを選ぶ際のヒント
そもそもハーレーは、同軸クランクで45度のVツインエンジンという構成から“等間隔で爆発していない”。そのため、多気筒エンジンでは有効とされる2in1タイプの集合マフラーの設計が難しいのだ。だが現在、カスタムシーンは集合タイプがトレンド。そこで集合マフラーを選ぶ際に見ておきたいポイントを解説しよう。
燃焼ガスの排気は、水の流れをイメージするとわかりやすい。例えば、上にある左側のイラストのような、パンヘッド以前のヴィンテージH-Dに見られる形状は集合部でぶつかり合い、澱みができてしまう。そのため上の右側にあるイラストのように流れを妨げず、後方へとスムーズに流れるような造形のほうが効率よく排気できるのだ。
パワーを発揮させるには排気をできる限り抵抗なく行うことも大切なのだが、2in1タイプの場合、集合部がエキパイの体積よりも絞り込まれてしまっていると、それが抵抗となってしまう。また、ある程度の絞りは多気筒エンジンでは有効だが、同軸クランクのハーレーは、排気干渉自体がデメリットになって出力向上につながらないこともある。そのため集合部を絞り込まず、同じ体積にすることで互いに干渉させない作りとしているものもあるのだ。