ハーレーの足まわりを考える【その2】
ハーレーのサスペンションは広大なアメリカ大陸を走るために進化してきた。タイヤがグリップしにくいコンクリートの路面を坦々と長時間走り続けられるよう、疲れにくい乗り心地に特化して進化してきたのだ。対して、ここ日本では道路がアスファルトであることに加え、ワインディングも多く、さらに信号も渋滞も多い街中を走れば、ゴー&ストップを繰り返すことになる。アメリカと日本では、そもそもハーレーの足まわりに求められる性能が違うというワケ。そこで、日本国内でハーレーを安全に走らせるために必要なことを、その筋のスペシャリストとして知られる「サンダンス エンタープライズ」代表“Zak”柴﨑氏にうかがった。前回のタイヤ編に続き、今回はフロントフォークの改善方法だ。
ハーレーはフロントフォークが柔らかすぎる!!
とても柔らかいスプリングを使用し、ブレーキをかけたときに底づきしないよう、硬めのオイルを入れて対処しているのが“アメリカ的”なハーレーのフロントフォークだ。急ブレーキをかけることの少ないアメリカの交通状況では問題ないかもしれないが、この設計こそがブレーキング時の制動力の弱さと、乗り心地の悪さを感じさせる要因。
そもそもサスのセッティングは“スプリングの硬さ”、つまりレートを最初に設定することがスタートラインである。ブレーキをかけて深く沈みこんでしまうようなら、スプリングを硬いものに換えていく。さらにプリロードを抜くことで、「初期で柔らかく、沈んでから硬くなる」ように乗り心地を構築していくのが基本。ハーレーはそもそもそれが異なっているというワケだ。だからこそ、ハーレーを日本で乗るなら、まず最初にやるべきはフォークスプリングの見直しなのである。
ところで「ダンパー」って何!?
さて、サスペンションの性質は基本的にスプリングで決まると説明したが、よく耳にする「ダンパー」とはどういう役割をしているのだろうか? もしもダンパーがないと、上のイラストのように幼少期に遊んだ“ホッピング”と同じように、繰り返しぴょんぴょんと跳ね回ってしまう。例えば、カーブを曲がる際、フロントブレーキをかけてグーッとサスが沈んだ後、ブレーキレバーをパッと放したときに、フロントまわりがポーンと跳ね返ってしまったら、地面からタイヤが離れてしまう。その「跳ね返り」を穏やかにするのが、ダンパーというワケだ。縮んだスプリングが戻るチカラを制御しているのが「ダンパー」の役割であり、硬いオイルを入れることでダンパーを硬く設定し、フロントフォークを硬くしているハーレーは、そもそもセッティングの方向性が間違っているのである。
スプリングが柔らかく、ダンパーが硬いハーレーのフォーク。
そもそもスプリングが柔らかいのに、硬いオイルを入れることで、ダンパーの動きを抑制しているハーレーの純正セッティング。これはサスがグーッと沈んだ後、戻るスピードが遅いということになる。つまり、この状態でデコボコ道を走ったら、サスが沈むけど戻ってこない、沈むけど戻ってこない……を繰り返すことで、スプリングがもとに戻るスピードが追い付かず、どんどんサスの全長が短くなってしまう。当然、縮んでいる状態のスプリングはとても硬いので、乗り心地も悪くなるのだ。
理想的なフロントフォークとは……!?
スプリングを見合ったレートのものに変更し、ダンパーも適度な柔らかさに変えれば、沈んだ後でもスッと戻り、デコボコ道を走っても、そのデコボコに合わせてフロントフォークが路面を追従するように動くので、乗り心地がよくなる。また、常にタイヤが路面に接しているから、グリップ力が高く、走行中の安定感も高まるというワケだ。
走りを激変させる理想的なスプリングとは!?
荒れた路面では柔らかく、そして踏ん張りの利いてほしい高速域ではしっかりとコシがあるのが理想的なフォークスプリングだが、1本のスプリングですべてをこなすには難しい面もあった。そこでサンダンスが開発したのが「マルチレート」という方式。ピッチの異なるふたつのスプリングを、硬質樹脂で連結することで、初期作動時のしなやかさと高速走行時の踏ん張る特性を両立した。フロント7割、リア3割という“バイクとして本来あるべき配分”でブレーキを使えるようになるのだ。
ご存じサンダンス エンタープライズ代表の柴﨑“Zak”武彦さんは、ハーレーに関する知識と技術に長け、日本のみならず世界にその名を馳せるエンジニア。エンジンだけでなく足まわりにも造詣が深い