ハーレーは何でベルトドライブなの!?
エンジンで生み出された動力を後輪に伝えている「ファイナルドライブ(2次減速)」。ほとんどのメーカーはチェーン、またはシャフトドライブを採用しているのだが、ハーレーは、他ではあまり見ないベルトを採用している。そのメリットなどをあらためて紐解いていこう。
アメリカならではの道路環境が採用の要因
広大なアメリカをツーリングして回ろうと思えば、自然と一度に長い距離を走ることになる。インターステート(州間自動車道)の整備が一気に進んだ1960年代以降、「キング・オブ・ザ・ハイウェイ」というキャッチコピーでセールスを伸ばしていたハーレーだが、ハーレーのようなトルクのある大排気量エンジンに見合うだけのチェーンは存在せず、耐久性に見合わないチェーンで一気に長距離を走れば、おのずとこまめな張り調整や給油などが必要になり、とても煩わしいものだった。
そこで1980年に初めて採用されたのが「ベルトドライブ」だ。ベルトといっても単なるゴムではなく、「新時代のチェーン」としてNASAによって開発されたコグドベルトというもので、非常に丈夫なケブラー繊維をシリコンラバーでサンドイッチした構造。当時採用されていたチェーンよりも寿命が長く衝撃吸収性に優れているほか、メインテナンスの必要もほとんどない。さらに排ガス規制や騒音規制などが厳しくなりつつあった1980年代にあって、チェーンのような騒音が発生しないことも大きなメリットだった。また、ベルトには排気量を前提とした安全基準の設定がなかったことも採用された理由のひとつ。時代の流れで、耐久性に見合わないチェーンを採用するような誤魔化しが通用しなくなってきたのだ。
こまめなメインテナンスを必要とせず、音も静かにできるという意味では、BMWが採用する「シャフトドライブ」も有効だが、部品点数が多いため重く、さらにコストがかかることがデメリット。既存のハーレーのエンジンに採用するには変更箇所が多くなりすぎるため見送られたと思われる。
ベルトドライブのデメリットとは!?
基本的にリアサスのストローク量が少ないハーレーには有効なのだが、ストローク量の多いモデルには向かない。というのも、ベルトはサスが沈むと“張る”ため、そのときのための余裕、つまり「遊び」を多少作っておく必要がある。ストローク量が多いほどベルトを相当緩めておかねばならないワケだが、それをすればコマ飛びを誘発してしまうのだ。
スポーツスターなどに多い、長いリアサスで車高を上げたカスタム車が大抵チェーンドライブ化しているのは、チェーンならばスプロケットとの噛み込み量が深いため、遊びを多くしてもコマ飛びの心配がないから。オフロードを走ることを想定したアドベンチャーモデル「パンアメリカ1250/スペシャル」がチェーンドライブを採用しているのも、ストローク量を多くとっているぶん、チェーンでなければ追従しきれないからだろう。
また、ベルトは長さを調節できないため、スプロケットの歯数を違うものに交換して減速比を調整することにも限界がある。エンジンチューンやカスタムを楽しむならドライブチェーン化が有効なのだ。
初めてベルトドライブを採用した歴史的モデル
一見すると現在も人気の高い「FXSローライダー」によく似ているが、ほとんどの部分をブラックとし、ホイールのリムやタンクマークにオレンジをあしらった、いかにもカスタム車らしいルックスが特徴の「FXBスタージス」は1980年に登場。先述のローライダーをはじめ、「FXスーパーグライド」など、数々の「ファクトリーカスタム」を生み出したウィリー・Gが手掛けたモデルだ。各地のバイクイベントに参加することで、その時代の流行を感じ取っていたウィリー・Gが、アメリカで最大級のイベントである「ブラックヒルズ・モーター・クラシック(通称スタージス)」にインスピレーションを受けて誕生した。また、プライマリードライブとファイナルドライブに初めてベルトを採用。これ以降、順次ハーレーのモデルはベルトドライブ化が進んでいった。
ホントに整備しないで大丈夫なの!?
チェーンドライブ車のようにベルトドライブのハーレーも定期的に張り具合を点検するのでは!? と思う人も多いだろうが、基本的には整備の必要はない。どうしても気になるという人は、専用工具を準備する必要がある。それすら煩わしいと思うならプロショップに依頼するのがオススメ。むしろ、それ以上に重要なのが、コマの破損がないか点検することだ。キズなどがあるまま走行していれば、突然ベルトが切れてしまうことも十分あり得るので注意しよう。
張り具合よりも、“コマの状態”をマメに確認すべし!!
ベルトの張りは専用ツールで点検する
ベルトのたわみ量を測定するには4.5kg(10ポンド)でベルトを押すのだが、正確なチカラが必要になるため、上の専用ツールを使用する。向かって右側をベルトに垂直にあてがい、左側のシャフトを線のところまで押し込み、その際のベルトの動く量を点検するのだ。