ハーレーの足まわりを考える【その3】
ハーレーのサスペンションは広大なアメリカ大陸を走るために進化してきた。タイヤがグリップしにくいコンクリートの路面を坦々と長時間走り続けられるよう、疲れにくい乗り心地に特化して進化してきたのだ。対して、ここ日本では道路がアスファルトであることに加え、ワインディングも多く、さらに信号も渋滞も多い街中を走れば、ゴー&ストップを繰り返すことになる。アメリカと日本では、そもそもハーレーの足まわりに求められる性能が違うというワケ。そこで、日本国内でハーレーを安全に走らせるために必要なことを、その筋のスペシャリストとして知られる「サンダンス エンタープライズ」代表“Zak”柴﨑氏にうかがった。前回のフロントフォーク編に続き、今回はリアショックの改善方法だ。
ハーレーはリアショックが動かない!!
サイドスタンドを払って車体を起こしたとき、前後のサスが縮んで車体が沈むのは当たり前なのだが、ハーレーの場合、フロントフォークが沈みすぎるほど動くのに対して、リアショックは動かないモノがほとんど。中には車体を起こし、人がまたがった状態であっても、まったくリアショックが動かないモデルもある。いわゆる国産メーカーや他メーカー製のバイクは、車体を起こした際に前後のサスが沈み(1G)、さらに人がまたがった状態で、さらに深く沈む(乗車1G)ように設定されているのだが、何故そうしているかといえば、サスペンションには“伸びしろ”をもたせる必要があるから。前回説明したように、フロントフォークを見直したのなら、合わせて見直したいのがリアショックなのだ。
ハーレーには「1G」と「乗車1G」がない!?
車体を起こし、前後のサスが少し沈んだ状態を「1G」、人がまたがってさらに前後のサスが沈んだ状態を「乗車1G」という。ことの大小はあるものの、人が乗って最低でもサスのストローク量の1/3程度沈むのが理想とされているのだが、ハーレーはリアショックがまったく沈まないモデルも少なくない。路面から強い突き上げあったときに、初めてリアショックがちょっとだけ動くというモデルも決して珍しくないのだ。そんなリアに対して、フロントフォークは1Gで半分近く、乗車1Gでは半分以上も沈んでしまう。“フロントはヘナヘナでリアはカッチンカッチン”。これがハーレー純正のセッティングで、これでは乗りにくくて当たり前なのである。
理想は前後ともに“伸びしろ”を1/3程度確保したい
サスペンションが必要とするストローク量は、フロントが100mm、リアが60~80mm。この数値は実際にサスペンションがストロークする量ではなく、タイヤが上下動する数値だ。そのうえで、乗車1Gで1/3程度沈むぐらいが理想。ノーマルのハーレーはこれらが滅茶苦茶なので、前後のサスを交換するなどして見直したうえで、あらためて設定する必要がある。
高性能なリアショックは路面に吸い付く!!
乗車1Gで沈む量を確保できる高性能なリアショックの場合、カーブを曲がっている最中に何かの拍子でリアタイヤが滑ったとき、サスペンションに伸びる余地が残されているので、即座にタイヤが路面を捉えることができる。ノーマルの場合、伸びる余地が残っていないので、そのままタイヤが路面から離れ、その場で踏ん張ることができずに転倒してしまう可能性もあるというワケだ。高性能なリアショックは操縦性やコーナリング中の安定感に絶大な効果があるのだ。
また、高性能なリアショックを選ぶ際は、ストローク量がしっかり確保できることはもちろんだが、この乗車1Gの沈み込み量を十分確保できることが重要。ストローク量の少ないモノはハーレーをより乗りにくくしてしまうので注意しよう。
ハーレーに適したリアショックとは!?
実は一般的な社外メーカー製のリアショックは“汎用品”をハーレーに取り付けできるようにセッティングされたものがほとんど。しかし、ハーレーの車重を考慮すれば、既存のスプリングはもちろん、ピストンやロッドに至っても若干頼りないことも事実だ。
そこでサンダンスのテクノロジーを終結し、国産大手メーカー「KYB」と共同開発したのが、上のリアショック。専用で太いロッドを開発したほか、“すべてをハーレー専用”に設計したものだ。もちろん、サスペンションの性能を決定づけるスプリングもハーレーの車重に見合うよう設計されたもので、取り付ければノーマルとは別次元の走りを実現する。
サンダンスが手がけるリアショックは、モデルに合わせてさまざまな種類があるのだが、そのどれもが前述の“伸びしろ”をしっかり確保していることが特徴。そこで、実際どれぐらいの量が確保できているのか計測してみた。
◆1G 275mm
◆乗車1G 255mm
◆後輪を浮かせた状態 308mm
ツーリングモデルにショートタイプを装着し、アクスルシャフトからフェンダーストラットまでの長さを計測。1Gで275mm、乗車1Gで275mm、さらに後輪を浮かせると308mmで、十分な伸びしろが確保できていることを確認できた。
ハーレーならではの「ソフテイル」専用モデルもある
ソフテイルといえば、ツインカムエンジン搭載の旧型、ミルウォーキーエイト搭載の現行型のどちらも車高を落とすローダウンが定番。車高を落としつつストローク量を確保するのは至難の業だが、見た目と乗り心地を両立する、そんな夢のようなリアショックもある。
ご存じサンダンス エンタープライズ代表の柴﨑“Zak”武彦さんは、ハーレーに関する知識と技術に長け、日本のみならず世界にその名を馳せるエンジニア。エンジンだけでなく足まわりにも造詣が深い。