【H-Dカスタム考察】ディガーとは!?
ハーレーのカスタムには「ボバー」や「チョッパー」、「フリスコ」や「スピードクルーザー」など、さまざまなスタイルが存在する。我々ハーレー好きにとってはどれも馴染み深いが、バイクに興味をもって間もない人にとっては、何のことやら、ちんぷんかんぷん!? というワケで、あらためてカスタムのスタイルを解説していこう。そもそもハーレーはアメリカで「ライフスタイル」や「文化」として深く根付いているワケだが、カスタムもまた、その時代ごとに流行を作り、いくつものスタイルを生み出してきた。第3回となる今回は、チョッパーから派生して誕生したといえる「ディガー」を掘り下げていこう。
LAとは異なるカッコよさが求められた“ベイエリア”
「ディガー」を紐解いていく前に、説明しておかなければならないのがその誕生したエリアだ。例えばファションにおいても常にトレンドを生み出す「渋谷」のような最先端の発信地があるように、アメリカのカスタムシーンにもトレンド発信地があったのだ。
現在は巨大なカスタムパーツメーカーにまで発展した「アレンネス」だが、1969年に初めてショップをオープンしたのが、「ベイエリア」と呼ばれるサンフランシスコの東対岸にあるサンレアンドロ東14番街の通り沿い。ここはアレンネス以外にも、ロン・シムズ率いる「ベイエリア カスタム サイクルズ」や「ビリーバッズ カスタム サイクル」といった有力カスタムショップが立ち並ぶ、カスタムの中心地といえる場所だった。時代的には、映画『イージー★ライダー』の影響もあってロングフォークチョッパー全盛期だったが、この界隈ではドラッグレースも盛んで、パフォーマンス製を意識した仕様やスタイルも人気を博していた。そのため、ロサンゼルス発祥のロングフォークチョッパーとは異なるトレンドが求められていたといえるだろう。
ドラッグレーサーをモチーフにした、まったく新しいスタイル
1960年代も終わりに差し掛かった当時のトレンドといえば、高性能な並列4気筒エンジンを搭載した日本製バイクと、コンパクトな車体に大排気量エンジンを搭載した「マッスルカー」などパワーや性能に注目が集まったころである。同じくパフォーマンスがもてはやされたベイエリアという土地柄から、ドラッグレースの人気が高かったというワケ。そうして誕生したのが「ディガー」というスタイルだ。
ここに紹介する2台は、当時ベイエリアで人気を博した「アレンネス」と「ベイエリア カスタム サイクルズ」が製作したディガー。どちらも短めのフロントフォークや、角度をつけたフレームのネック角のよって、“低く長いシルエット”としていることがわかるだろう。これこそが先のドラッグレーサーのイメージ。ディガーという名は、ドラッグレーサーがリアタイヤを空転させるイメージから名づけられたもので、空転させた後輪で路面を掘る(Dig)ことが由来。エンジンにはターボやブロワーといった過給器を取り付け、パフォーマンスを強烈なまでに打ち出したのである。
シーンを牽引したアレン・ネスの独自性
数々の雑誌のグラビアを飾ったほか、雑誌にオリジナルパーツの広告を掲載することでカスタム好きの間で広く存在を知られるようになったアレン・ネス。彼の豪華絢爛なカスタムは、粗暴な不良たちの乗り物であったチョッパーというそれまでのイメージを払拭し、世界中のセレブたちに一目置かれる素敵な乗り物へと昇華させるに至った。また、カスタムをビッグビジネスとして成功させたという点でも前例がなく、まさにレジェンドと呼ぶにふさわしい偉業を残したのである。
LA発のチョッパーとは明らかにことなるシルエット
現在のカスタムシーンにも影響を与え続けている
これは日本の「ケンズファクトリー」が製作した「Hard Call」という車両だが、どことなくディガー……というよりもアレン・ネスの作品をイメージさせる仕上がりであることがわかるだろうか? ビルダーの永井氏いわく、特別ネスを意識して製作したのではないというが、低く長いシルエット、そしてブロワーを積んだエンジン、ディテールに凝りまくった外装などからアレン・ネスの影響が感じとれる。つまり、それほどまでに多くのビルダーに影響を与えたのだから、ネスがディガーを生み出した功績は計り知れないほどに大きいのである。