【ヴィンテージH-D カスタム ファイル 】軽快なヒルクライムレーサーをイメージ
一見すると「ナックルヘッド」ベースの「ボバー」カスタムにも見えるが、本来ならシート下にあるべきオイルタンクの存在が見当たらないほか、極めてスリムに、そしてシンプルに作り込まれていることがおわかりだろう。そう、これはナックルヘッド登場以前の1920年~1930年ごろに人気を博したという「ヒルクライムレース」に参戦するマシンをイメージして製作されたもの。急斜面を駆け上がる競技のため、当時のレーサーは軽量かつコンパクトであることが重要。そんな雰囲気をナックルヘッドに落とし込むことで、ボバーやチョッパーとはひと味違った個性的なマシンに仕上がっている。
オーナーは人気のシルバーアクセサリーブランド「ファーストアローズ」代表の伊藤さん。かなりのハーレー好きとして知られるが、そんな彼と親交の深い「ハマーサイクル」にオーダーして完成したのが、この1941年モデルの“EL”だ。“当時、ハーレー社がもしもナックルヘッドでヒルクライムレーサーを作っていたら……”をコンセプトにカスタムを進めたというが、伊藤さん曰く、パーツ集めがとても大変だったそうだ。
「’20~’40年代のパーツでまとめたかったので、アメリカに行ったときやインターネットで探しながらコツコツと部品を集めました。あとはお任せで作ってもらったんです」と伊藤さん。
走るための必要な部品だけに厳選し、大きすぎるモノは貴重な部品であっても加工してコンパクトにするなど、妥協することなく手をかけて極限までシンプル、かつスリムな車体に仕上げている。バッテリーを搭載せず、オイルタンクも移設することでシート下をスッキリまとめ、前後19インチホイール化したシルエットも個性的。極限まで軽くなった車体、そしてもともとレースエンジンとして誕生したナックルヘッドだけあって、とてもよく走るそうだ。
1930年代の“VL”用スプリンガーフォークを使用。このパーツありきでカスタムがスタートしたという。KR用19インチホイール(レプリカ品)を装着するために、ネックを寝かせて装着している。
ハマーサイクルオリジナルの“ナローバー”の中央にブリッジを溶接。ケーブルがバーの中を通るインナースロットルのため、その見た目は極めてシンプルだ。
タンクは左右でセパレートされ、右側をガソリン、左側をオイルタンクとすることでシンプルなスタイルを実現。フライングホイールのロゴマークの上下に、まっすぐのラインをあしらったグラフィックは1937年と1938年に実際に純正採用されていたもの。集めた部品と近い年代の純正グラフィックを採用することで、完璧なまでの統一感を演出している。
移設したオイルタンクから伸びる銅製のオイルラインは、フレームに合わせて曲げて製作。オイルラインを極力目立たせないことで、シート下のスッキリ感が強調されている。
ハマーサイクルのシートにファーストアローズのシルバーをあしらったオリジナルシート。このナックルヘッドには「Barnacle(フジツボ)」という名前が与えられているのだが、その由来となっているのがこのシルバーの形状なのだという。
“フラッシュゴードン”と呼ばれる純正のマフラーエンドをカットし、さらに出口を閉じたうえでドリルド加工。これによって適度な排圧がかかるようになり、見た目はもちろん性能的にも満足いくものになったという。
【DATA】
取材協力/ハマーサイクル TEL029-824-3393