ハーレーの排気量、なんでこんなに大きいの!?【その2】
伝統の空冷OHV方式を採用する現行型Vツインエンジンの中で、これまで「CVO」だけに搭載されていた「ミルウォーキーエイト117」。2022年モデルからCVO以外のモデルにもこれが搭載され、話題となったのはご存じの通りだろう。このエンジン、排気量はなんと1923ccと、2気筒エンジンとしては大きすぎでは!? と勘ぐってしまうほどに巨大なのだが、“ハーレーの排気量が大きいこと”は、なにも今に始まった話ではない。さかのぼれば最初に誕生したVツインから、そもそも大きかったのである!?
ほぼ“チャリ”なのに1000cc!?
ハーレーダビッドソン黎明期といえる1910年代、モーターサイクルがまだ自転車のようなスタイルをしていたころから「Vツイン」エンジンは存在するのだが、当時の排気量は既に1000ccもあった。さすがに大して馬力は出ていないとはいえ、まだしっかりとしたブレーキシステムすら採用されていなかった時代に1000ccである。このVツインエンジンは当時のラインアップの中でもフラッグシップモデル的な存在なのだが、1921年に1200cc版が登場するなどさらに大型化されていった。単純に排気量の大きさのみで判断すれば、現代とほとんど変わらない。小さな排気量から始まった日本のバイクメーカーと比べれば、スケールの大きさを感じさせるではないか!!
チカラを求めて排気量を拡大
ハーレーダビッドソンがいちばん最初に生み出したモデル(上写真)は、ご覧の通り単気筒エンジン。ここからさらなる性能=馬力を向上させる最も簡単な方法は“排気量の大幅な拡大”である。しかし、単気筒のまま排気量を大きくすればシリンダーが大きくなりすぎて、フレームに収まらなくなってしまう。また、シリンダーが大きくなれば当然ピストンも大きく、重くなるうえ、往復運動する距離が長くなれば抵抗や振動が増えてエネルギーロスも増えてしまう。単気筒のまま排気量を上げるより、シリンダーを増やして排気量を拡大するほうが効率がよかったのだ。そうして誕生したハーレー初期のVツインモデル(下写真)は、単気筒にひとつシリンダーを追加した、とても単純な作りだった。
「Fヘッド」と呼ばれる初期のVツインエンジン
サイドバルブエンジンを横から見ると、吸排気ポートから燃焼室の形状が「L」型をしているのに対し、吸気バルブのみ上にある構造上、「F」のように見えることから「Fヘッド」と呼ばれるエンジン。吸気バルブはオートマチック式で、ピストン下降時に発生する注射器のような負圧によって吸気バルブが開く仕組み。ハーレーはこのFヘッドを最初の1号機から採用しており、Vツインとなった5Dにもそのまま採用(上写真/左)されたのだが、正確性に欠けるという問題が発生した。
そこで1911年に登場した「7D」というモデルに搭載されたのが、改良型Fヘッド(上写真/右)だ。吸気バルブをプッシュロッド駆動にすることで問題を解消した。これが功を奏し、以降ハーレーの主力エンジンはVツインとなっていったのである。
日本に初めて輸入されたハーレー
1911年に登場した改良型Fヘッドは、その翌年に排気量を1000ccに拡大。日本に初めて輸入されたハーレーダビッドソンは1913年の「9E」で、搭載されたエンジンは1000ccの改良型Fヘッド、ミッションは1速のみだが、クランクの回転をそのまま後輪に伝えるのではなく一度減速されているほか、スプリング自体をカバーで隠されているものの、衝撃を吸収するスプリンガーフォークをフロントに採用。シートも衝撃を吸収するフルフローティングタイプとし、エンジンはもちろん車体も進化を果たしたモデルだ。
メカ的に退化した!? 「サイドバルブ」に世代交代
改良型Fヘッドは吸気側がOHV、排気側がサイドバルブという「オホッツバルブ」方式を採用していた。当時からバルブをシリンダーの上に配置したほうが効率がいいことはわかっていたが、エンジンオイルを循環させる技術はなく、むき出しのロッカーアームにライダーが直接オイルを指しながら走らせるというものだったのだ。
そこで、さらなる量産を考慮し、性能は劣るもののパーツ点数が圧倒的に少なく整備性に優れたサイドバルブ方式の「フラットヘッド」エンジンが1929年に登場。1000ccと1200ccのバリエーションから「ビッグツイン」と呼ばれたFヘッドに対し、750ccのフラットヘッドは「ベビーツイン」と呼ばれ親しまれたのだ。